夏の雲雀は かろやかに

        *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
         789女子高生設定をお借りしました。
 


       




 歴史も古く、卒業生にも在校生にも、要人や名士の令嬢たちが数多くその名を連ね。だが、ただただ“選ばれた人間”という格づけへの自覚だけを助長するよな、場合によっては鼻持ちならぬ小娘しか輩出しない、中途半端なそれじゃあ決してなく、他者への慈愛と尊敬、感謝の念を忘れず、正しい優しさと強さを身につけた、品格ある賢婦人を育むことをこそ、基本理念とし目標とするという、それはそれは由緒ある女学園には……到底相応しくはない騒動が勃発したのが、八月を目前に控えた とある盛夏の午前のことで。

 「草野さん、林田さん、三木さん。
  その姿は 一体どうしたことですかっ。」

 現在の在校生たちの中でも、特に際立つ存在感を放つ三人組。それぞれに個性的な美貌や言動でもって、生徒たちから絶大な人気を博しており、殊に、どんな場面へも怯むことなく、年齢にそぐわぬほどの落ち着きによる風格ある態度を見せるところは、教師やシスターたちの間でも認知済み。よって、どんな新規の活動や催しでも、彼女らが加わっているのならば まま安心でしょうという順番になるほどに、大人たちからの信頼も厚かった少女たちだったはずが。

 『今年のミス・メイクイーンたちと、敷地内の文化財を撮りたいのですよ。』

 卒業生には思い出の深かかろう学園内の風景を、カレンダーに使う素材として撮影しに来たカメラマンに見初められ。突然呼び出されたそのまま、五月祭のおりと同じ、それは愛らしいいで立ちに着飾り、被写体として楚々と同行していった彼女らだった筈だのに。撮影作業中だった校庭で、不意に沸き起こった怒号と悲鳴と。そして…緑深まる立ち木をゆさゆさと揺るがすほどの途轍もない大騒ぎと。何事が起きたものかと怖々確かめに向かったシスターたちの視野へと飛び込んで来たものは。

 「な……っ。」

 撮影用の機材を黙々と運んでいた助手の男衆らが、態度一変、掴みかかろうとする狼藉を繰り出すのへと。それは果敢にも、長い棒や鉄パイプを手に手に応戦していた、メイクイーン三人娘であり。頭数といい両者の体格差といい、ほんの15、6歳の少女たちが3人だけという陣営の方が絶対不利であるはずが。純白のローヴの裳裾を引き千切り、そこから綺麗な御々脚を大胆にも覗かせて。屈強な男性ら複数を向こうに回し、少しも怯まずの堂々とした渡り合いは、むしろ彼女らのほうが優勢だったほどらしく。容赦なく殴打したおし、片っ端から打ちすえて這いつくばらせていたところへ、おやめなさいと飛んで来たシスターたちだと気がついて、

 「あ…。」
 「………っ。」
 「あやや。」

 そこはさすがに、優等生のお三人。我に返ってか攻撃の手が止まったが、正確には…相手がこれを逆手にとっての、形勢逆転とされたらどうしよかという懸念から、その身が凍ったまでのこと。そちらは正真正銘、か弱きシスターたちだから、人質に取られれば それこそ手も足も出なくなる。とはいえ、

 「そこまでだっ。」

 島田警部補がこちらの所轄へも手配をしておいて下さったようで。中庭を取り巻く木立ちのあちこち、四方八方から突入して来た警察官の一群には、もはやこれまでと一味も観念したらしく。しおしおと逮捕されてゆくのを、胸を撫で下ろして見送ったお嬢さんたちであり。

 「……何がどうしたというのですか。」

 そんな物々しい様相に翻弄されてしまったか、ますますのこと おろおろと狼狽しておいでのシスターたちへは、

 「ちょっといいでしょうか?」

 先程 鶴の一声を放ったところの背広姿の刑事さんが、状況説明を引き受けて下さるらしくって。そして、

 「お嬢さんたちは、こちらへ同行して下さいな。」

 物慣れた雰囲気の、こちらも私服だがスーツ姿だから刑事さんだろう女性が、お声を掛けて下さり。本庁のほうで事情聴取がありますのでと言われたものの、

 「あのあの、その前に着替えてもいいですか?」
 「というか、シャワー浴びたいんですけれど。」
 「〜〜〜〜〜。」

 お嬢さんがたが、まずはと口々に言い立てたのが“そういうこと”だった辺りが、余裕なんだか今ドキなんだか。

 「はい?」

 思わずのことだろう、目が点になった刑事さんへ。だって朝一番からずっと、このドレス姿で居たんですよ? 今日ってやっぱり猛暑日になったんでしょう? そうは見えないかも知れませんが、この中は汗みずくで そりゃあもうもう気持ち悪いんです。この子なんて脱水症状起こして倒れかけたくらいですし、また気分が悪くなったらどうしますか。救助が入ったとき、この格好だったって証拠がいるのなら、写真でも何でも今すぐ撮って下さいな、と。そりゃあ はきはきと詰め寄った挙句、まま被害者の方なんだからと、指揮を執ってた刑事さんが口添え下さってのこと、クラブハウスのシャワーを使って着替えてよろしいとの許可が出て。さて、

 「あー、気持ちいいっ。」
 「ホント、生き返るよねぇ。」
 「〜〜〜〜。」
 「何ですよ、久蔵殿。
  今、おっさんみたいだなんて言いたそうな顔したでしょう。」
 「〜〜〜。(苦笑)」
 「まあまあ、もめない。ほら、これ使って。」
 「あ、ボディソープ? いい匂いだね。」
 「…?」
 「そうですよ、アタシ愛用のアプリコット。こんなすぐによく判りましたね。」
 「だって、大好きなシチさんの匂いですものね?」
 「〜〜〜〜。////////」
 「あいたた☆」
 「こらこら叩かないの、久蔵殿。」
 「あははvv 言い過ぎましたね、ごめんなさい。
  え? 許してくれますか? じゃあお詫びに背中を洗ったげましょう。」

 おおう、いきなりのサービスタイムでございましてvv もーりんが絵描きだったら良かったですねぇ。

 「久蔵殿って日頃隠してますけど、うなじや首条が綺麗ですよねぇvv」
 「そう言うヘイさんは、すっごいモチ肌vv ほらほらプルプル。」
 「シチさんこそ、お尻が上がっててカッコいいったらvv」
 「…、…、…。(頷、頷、頷)」

 さっきの今だってのに、もう目一杯はしゃいでおいでの お嬢様がたの艶姿、お見せ出来ないのが残念です。(こら)

 「でも、いいんですか? これってもしかしてシチさんの私物なんじゃあ。」
 「〜〜〜?」
 「久蔵殿も、一気に減ったぞって。」
 「構いませんて。」

 部室に置いてる分が無くなったんで持って来たんですが、まずはとこんな風に有効に使えたなんて嬉しい限り。白百合さんがにっこりと笑ったのへ、紅バラさんが“じゃあ…”と、やはりポーチから取り出したのが、

 「…え? あ、それ。」
 「Jホテルのアメニティの、リンス・イン・シャンプーvv」
 「わ〜、これ好き〜vv」
 「これって自社開発のなんですよねvv
  洗ってる途中から、しっとりさらさら♪」

 …なぁんていう、明るいお声での極めてお気楽な会話が弾けてののち。年頃の女子にしてはそれでも手際良く身支度を終え。白地ベースのセーラー服に濃色のひだスカートという、当学園の夏Ver.の制服姿になって、庭先へ出て来たお嬢様3人だったが、

 「???」
 「何でまた、うずくまってる方々があんなに?」
 「鼻とか押さえてますね。」
 「あ〜、気にしなくていいですよ。」

 シャワー室の窓からのお声が全部、犯人の検挙と確保、並びに現場の撮影や何やという作業中の皆様の耳へと届いていたがための“副産物”。思わぬ鼻血とか立ち上がることが出来ない状態とか、色んな意味からのお恥ずかしい事態にあるだなんて…言い訳してやるのも恥ずかしいと、女性の刑事さんが肩をすくめ、

 「それでは、出発いたしましょう。」

 シスターたちも、どうやら彼女らが率先して暴れていた訳じゃあないってことへは納得してくれたらしく。むしろ危険な目に遭っていたのだと知ってのこと、警察の方へしっかりとお話しして来るのですよと、励ましのお言葉を掛けて下さり、パトカーに乗り込んだ姫たちを見送って下さったのだった。







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